メゾネットという選択。男は、なぜ階層を求めるのか

集合住宅の画一性と、戸建ての孤独。その二元論に終止符を打つ存在がメゾネットだ。一つの住戸に内階段を設け、空間を縦に分断する。それは、生活動線という軟弱な言葉で語られるべきものではない。仕事と休息、社交と孤独、建前と本音。異なる領域を物理的に隔てることで、男は思考と感情のスイッチを切り替える。下の階が社会と繋がるパブリックな舞台であるならば、上の階は誰にも侵されないプライベートな聖域なのだ。メゾネットとは、都会のジャングルに自ら築き上げる、精神的な結界といえよう。

上の階に書斎を構えれば、眼下の喧騒は遠い世界の出来事。まるで城の天守閣から下界を見下ろす孤独な王か、あるいはコンクリートの谷間で狩りを終え、巣穴で傷を癒す一匹の狼か。SNSの通知も、鳴り止まぬビジネスチャットも、階段という物理的な障壁の前では無力だ。
男はそこで初めて、社会的な役割という名の鎧を脱ぎ捨て、素顔の自分と向き合う……などという妄想はさておき。現代社会において、オンとオフの切り替えが極めて重要な課題であることは論を俟たない。

唐突だが、『ルパン三世 カリオストロの城』を想起させる。古城の複雑な構造、特に上下に伸びる螺旋階段や隠し通路は、単なる移動経路以上の意味を持っていた。それは追手から逃れるための活路であり、物語の舞台装置として機能し、キャラクターの心情すら表現していたのだ。
メゾネットの階段もまた、それと同じである。下の階でペルソナを演じきった男が、螺旋を描きながら自らの聖域へと帰還する。その姿は、お宝を手に入れ、夜の闇に消えるルパンのそれと重なる。生活空間に「垂直」の概念を持ち込むことで、日常は途端にドラマ性を帯び始めるのだ。

メゾネット、それは男の持つべき二つの顔を繋ぐ、螺旋の哲学である。

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