城壁を固めろ!「ディンプルキー」「ダブルロック」そして高級賃貸物件の戦い

前回のコラムでは、オートロックという現代の城壁について触れた。しかし、城壁を突破されたとしても、本丸である居室が無防備であっては意味がない。高級賃貸物件を選ぶ最大のメリットは、突き詰めれば「安全」を買うことにあるといえよう。

そこで、現代の城郭における最終防衛ライン「ディンプルキー」について見ていこう。
2000年代初頭から普及し始めたこの鍵は、従来のギザギザしたピンタンブラー錠とは一線を画す。表面に複雑な「くぼみ(Dimple)」が無数に穿たれており、その配列パターンは天文学的な数字になる。ピッキングというコソ泥の技術を過去の遺物へと追いやった、まさにハイテク時代の守護神なのだ。

しかし、光あるところに影があるように、犯罪と防犯は永遠のいたちごっこだ。プロの窃盗団にかかれば、ディンプルキーとて時間をかければ攻略されてしまうかもしれない。ならばどうするか。高級賃貸物件が出した答えはシンプルかつ暴力的だ。「ダブルロック」。つまり、鍵を二つ付けたのである。
一つ開けるのに5分かかるなら、二つなら10分。そのわずかな時間のロスが、犯人に「諦め」という心理的ダメージを与え、セキュリティ会社が駆けつけるタイムラグを稼ぐ。

もしかすると、本当に恐れるべきは外部の泥棒ではなく、合い鍵を渡してしまった恋人が、別れ話のもつれから深夜に侵入してくることかもしれない。二つの鍵のうち、片方だけをこっそり交換しておくという裏技を使えば、彼女はドアの前で立ち尽くすことになるだろう。

……といった事態を避けるためにも、正規の手続きで鍵の管理は行うべきだが。

この「終わらない戦い」を見ていると、あるバンドのメロディが脳裏をよぎる。
80年代、世界中を席巻したロックバンド・ジャーニー(Journey)。彼らの代表曲『Don't Stop Believin'』だ。
歌詞の中で描かれるのは、深夜の列車に乗り込み、どこかへ向かう孤独な男女。彼らは何かを探し、何かを信じ続けて闇の中を進んでいく。

防犯システムも同じだ。「絶対に破られない鍵」など存在しない。ピッキング技術が進化すれば、それを防ぐ技術も進化する。昨日までの最強が、明日の時代遅れになる。
それでも我々は、信じることをやめてはいけない。いつか犯罪のない世界が来ると信じ、あるいは、この二つの鍵が愛する者(と自分のプライバシー)を守り抜いてくれると信じて、毎晩ドアノブを回すのだ。ジャーニーのボーカル、スティーヴ・ペリーのハイトーンボイスのように、どこまでも高く、強く、セキュリティへの意識を持ち続けなければならない。

ディンプルキーによる玄関ダブルロック付き物件に住むこと、男ならDon't Stop Believin'である。

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