高級賃貸物件の設備シリーズ。今回は「シューズインクローゼット(SIC)」について考えてみよう。
玄関は「家の顔」である。その顔が靴で散らかっていては、どんなに高級なスーツを着ていても、男の品格は地に落ちるというものだ。そこで登場するのが、このシューズインクローゼットだ。
単なる下駄箱(シューズボックス)とはわけが違う。その名の通り「靴を履いたまま入れる」収納スペースであり、ゴルフバッグやベビーカー、あるいは雨に濡れたコートさえも、居室に持ち込むことなく収納できる「土間」の延長線上にある空間だ。
日本の住宅事情において、これほど贅沢な空間の使い方はない。本来ならもう一部屋作れるスペースを、あえて収納にする。それは、「余白」を楽しむ余裕の表れでもある。
もっとも、そこまでして隠さなければならないほど、現代人は大量の靴を必要としているのかは甚だ疑問だ。ビジネス用の革靴、ジム用のスニーカー、雨の日用のブーツ、そして一度も履かれていない衝動買いのローファー。
まるでムカデの転生体かのように靴を買い漁るのは、現代社会というコンクリートジャングルを歩くために、我々が常に異なる「仮面」ならぬ「靴」を付け替えなければならないから......なのかどうかはともかく。
靴には、その人間の生き様が宿る。
かつて一世を風靡した少女漫画、そしてドラマ化され日本中の女性を虜にした『花より男子』。その中で、F4の幼馴染であり、才色兼備の令嬢・藤堂静は、主人公の牧野つくしにこう語りかけた。
「とびきりいい靴をはくの いい靴を履いていると その靴がいい所へ連れて行ってくれる」
このセリフに痺れたのは女性だけではない。男にとっても、靴は単なる歩行器具ではなく、自分をまだ見ぬ高みへと運んでくれる推進装置(ブースター)なのだ。
しかし、現実を見てみよう。どんなに高級なイタリア製の革靴を履いても、満員電車で踏まれ、突然のゲリラ豪雨でシミになり、居酒屋の座敷で他人の靴と間違えられる。藤堂静が言う「いい場所」にたどり着く前に、靴のほうが先にダメになってしまうのがオチだ。
だが、それでも男はいい靴を求め、それを収めるための相応しい場所を求める。
『機動戦士ガンダム』において、ホワイトベースの格納庫(ハンガー)で整備を受けるガンダムの姿は、戦場に出る時よりも美しく見えた。
アムロ・レイが「アムロ、行きます!」とカタパルトから射出されるあの瞬間、彼を支えていたのは、完璧に整備された機体と、それを送り出すデッキクルーたちの想いだ。
シューズインクローゼットとは、現代の戦士であるビジネスマンにとっての「モビルスーツ格納庫」に他ならない。戦いで傷ついた靴を休ませ、磨き上げ、次の出撃(出社)に備えて整列させる。その静謐な空間で、男は明日への闘志を密かに燃やすのである。
シューズインクローゼットのある生活、それは男の「発射カタパルト」である。