トランクルーム

都心の一等地において、最も贅沢な資源は「空間(スペース)」である。
どれだけ高機能なシステムキッチンがあろうと、最新のバスルームがあろうと、物理的な空間の広さに勝るラグジュアリーはない。その意味で、住戸とは別に用意された収納区画「トランクルーム」は、高級賃貸物件における「物理的クラウドストレージ」といえよう。

季節外れの衣類、年に一度しか使わないキャンプ用品、あるいはパートナーには見せられない個人的なコレクション。これらを生活空間から切り離し、外部に保存する(アーカイブする)。これにより、リビングは常にモデルルームのような美しさを保ち、男はノイズのない空間で思索にふけることができるのだ。

しかし、冷静になって考えてみてほしい。我々はなぜ、普段の生活で全く必要としないモノのために、安くない賃料を支払い続けるのか。
それは、「いつか使うかもしれない」という貧乏性ゆえか、あるいは「過去の自分」を捨て去ることへの恐怖心か。トランクルームに詰め込まれているのは、実は荷物などではなく、決済されなかった過去の決断や、捨てきれない未練の集合体なのかもしれない。毎月引き落とされる管理費は、さながら過去の亡霊たちへの手切れ金である。

……というのは、いささか考えすぎだろうか。

捨てられないモノには、物語がある。
1986年に公開されたスタジオジブリの名作『天空の城ラピュタ』。主人公パズーの父は、ラピュタを発見した詐欺師として死んだが、パズーはその父が残した冒険への憧れやゴーグル、そして作りかけのオーニソプター(羽ばたき機)を大切にしていた。
もしパズーの家が狭いワンルームで、トランクルームもなかったとしたらどうだろう。「父さん、邪魔だからこれ捨てるね」と断捨離していたら、彼はシータと出会っても空へ旅立つことはなく、ただの鉱山夫として一生を終えていたかもしれない。

ドーラ一家という空賊たちもまた、巨大な飛行船タイガーモス号の中に、大量の食料や武器、そしてお宝を詰め込んでいた。あれも一種の空飛ぶトランクルームだ。彼らは知っているのだ。男のロマンを詰め込む場所がなければ、いざという時に空へ飛び立つことなどできないと。

現代のパズーであるビジネスマンたちもまた、スノーボードやゴルフバッグ、あるいは読み返すことのない大量の漫画コレクションという名の「父の遺産(自分史)」をトランクルームに詰め込んでいる。それは単なる荷物置き場ではない。日常という重力に魂を縛り付けられないための、心の逃げ場所であり、いつか再び冒険に出るための準備室なのだ。
「バルス」と唱えてすべてが崩壊するその時まで、俺たちの宝物はそこで眠り続ける。

トランクルームのある生活、それは男の「ラピュタへの道しるべ」である。

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